動画音声ブログ~Portacapture X8に搭載される32ビットフロート録音の仕組みについて~


ティアック本社ショールームにて開催している、動画の音声機材を試せる体験会『TASCAM Hands-On!』にて、ご来場されたお客様からいただいたご相談や使用事例をご紹介しております。

 

202312月開催の体験会にプライベートでライブハウスを中心とした屋内での音楽ライブを収録しているお客様にご来場いただきました。収録環境は映像と音声は別録りで音声レコーダーはTASCAMDR-40Xを使用いただき、制作された映像はYouTubeで公開されていて、演奏者の方からも音質が良いと好評いただいてるとの事でした。

ただ録音時に音割れを怖れて録音レベルを下げすぎてしまい音声データの音量レベルが小さくなってしまう事がよくあるとお悩みでした。

DR-40Xではデュアル録音機能で設定した録音レベルに対して低いレベルの録音を同時に行い、バックアップを録ることも可能ですが、細かな録音レベル設定の必要のない32ビットフロート録音の技術を知り、32ビットフロート録音対応の「Portacapture X8」にご興味をお持ちいただいたことがきっかけで、体験会に参加されたとのことです。

お客様は既に音割れしないのが32ビットフロートの特長である点についてはご存じでしたが、なぜ音割れしないのか仕組みを理解し納得してから使用したいとの事で、概要をご説明させていただきましたので、ご紹介したいと思います。

 

32ビットフロート処理について

Portacapture X8などに搭載される音割れしない録音のしくみは、デジタル段での「32ビットフロート処理」とアナログ入力をデジタル化する時の「デュアルADコンバーター」の2つの技術を採用することで実現しています。

まずは32ビットフロート処理について説明します。

32ビットフロートはデジタル段での演算処理を指し、“フロート”は「浮動小数点」を意味します。固定小数点型の16ビットや24ビットでは大きな音の時は解像度も確保できますが、小さな音になればなるほど解像度も粗くなります。

32ビットフロートでは音声記録を24ビットの解像度で行い、浮動小数点型の8ビットが小数点の位置を示す指数としてデータのスケールを変動させることで、桁違いのダイナミックレンジを得ることが可能になります。

お客様は「32ビットフロート録音は32ビットの解像度で録音している」と考えていたため、24ビット解像度を基本にしていることに驚かれていました。

 

24ビットと32ビットフロートのダイナミックレンジの数値の比較をすると、24ビットは約144dBに対し、32ビットフロートは約1680dBもあり、24ビットをはるかに超える幅広い音声レベルのデータを記録することができます。

お客様もダイナミックレンジの具体的な差を気にしていましたが想像以上の数値を聞いて納得されていました。

32ビットフロート処理のポイントとしては24ビットの解像度で収録された録音データの解像度は維持されたまま指数部の8ビット分によるスケール変更を伴った音声記録が可能になります。














※録音データは2進数のため「0」と「1」で構成されます。

 

これにより、固定小数点型演算の16ビットや24ビットでは、DAWなどでの編集時に録音データの音量レベルを下げた状態で書き出しを行い、再編集時に波形を元のレベルに戻すと音声データの解像度が劣化(ビット落ち)してしまいますが、32ビットフロートの場合は再編集時でも元の解像度を維持することができます。

また、録音レベルが高すぎてクリップした状態において24ビット録音では再編集時にレベルを下げても波形が上下切れた状態になってしまいますが、32ビットフロートで書き出した音声ファイルの場合、波形を小さくすれば元の綺麗な波形が現れます。


 以下は編集ソフト上でクリップした音声データのゲインを下げた際のイメージ図になります。

 


デュアルADコンバーターについて

Portacapture X8をはじめとする32ビットフロート対応レコーダーでは、1つのオーディオファイルを作成するために、2つのADコンバーターが連携するデュアルADコンバーターが動作しています。

お客様はデュアルADコンバーターの技術についてご存じありませんでしたのでご説明した内容をご紹介したいと思います。

 

デジタル段で解像度を維持する32ビットフロート処理の恩恵を受けるためにはアナログ段でいかに広いダイナミックレンジの音声入力を可能にするかが重要になります。

デュアルADコンバーターは、高い入力レベルでノイズの少ない録音を実現する「ADC High Gain」と、低い入力レベルでクリップしにくい録音を実現する「ADC Low Gain」のレベル差を設けた2つのADコンバーターが同時に機能します。

この「ノイズの少ない信号」と「クリップしていない信号」の2つの良いとこ取りがデュアルADコンバーターによって可能になります。

以上をまとめると、32ビットフロートの録音では、アナログ段はデュアルADコンバーターによるダイナミックレンジの広い高解像度の音声入力を可能とし、デジタル段では32ビットフロート処理によって解像度を維持した音声データを記録することができます。

「音割れしない」仕組みについて疑問を持たれていたお客様にも納得していただき、安心して製品を使用できるとご感想をいただきました。

 













32ビットフロート録音の回路構成イメージ

  

お客様より32ビットフロート録音設定であれば絶対に音割れしないのかとご質問いただきましたがアナログ段での音割れは復元できないため、レコーダーの設置位置や録音時の入力レベルの設定を大きくしすぎないなど、マイク入力に耐えられる録音環境であるかご注意していただく必要がある点をお伝えしました。

その確認方法としてPortacaptureシリーズではアナログ回路でオーバーロードが発生した場合、対応するチャンネルのレベルメーター全体を赤く点灯させる事でアナログ段での音割れ状態をモニターすることができます。

 















※アナログ回路でトラック4がオーバーロードした例

 

 

32ビットフロート録音の詳細については以下のページで解説しています。

 32ビットフロート録音とは?

 

 



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